君の作る輪の中に
仲間だとか、友情だとか…。
そんなもの望んでなかったはずだったけど…。
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「猿野、ほらもたもたすんじゃねーって。置いてくぞ〜。」
「わたたっちょい待てって今財布…。」
部屋の片隅で、数日前まで騒動の中心だった二人がなにやら仲良さげにしている姿が目に留まった。
その姿に、凶賊星学園のMr.クワットロは驚きを隠せなかった。
(いつの間にあのように…全く、あやつは物怖じということを知らんのか。)
バスの中でもそうだった。
同じ学校の人間とも馴れ合わない自分に、何のためらいもなく声をかけ。
入るつもりのなかった他校勢との輪の中に、自分をもいつの間にか巻き込んで。
クワットロ自身、すんなりと埼玉選抜のメンバーの中にすんなりと溶け込んでいる自分に驚いていた。
そして、きっかけとなった彼…十二支高校1年、猿野天国に驚異の思いを抱いていた。
その彼が、今度は初日からいがみ合っていた華武高校の御柳とも仲良く(?)
連れ立ってどこかに行こうとしている場を見たのだ。
猿野天国という存在の、不思議な求心力ともいうべき空気に驚きを通り越して呆れの感情まで生まれてくる。
そう思っていると。
彼ら二人と個別特訓を受けている村中由太郎が目に入ったので、何気ないように聞いてみた。
「村中。あの二人いつの間にやら小競り合いをやめたようじゃな。」
クワットロが話しかけたことに、由太郎は特に不思議に思わず。
面白そうに笑って答えた。
「あー、あの二人な。
なんてゆうか、お互い似たモン同士なのにきづいただけだろ?」
二人ともとんでもなく意地っ張りでさ〜、と楽しそうに話を続ける由太郎の頭上を。
何か影が映ったと思うと。
「でっ!」
「誰が似たモン同士だ。あんな猿といっしょにすんじゃねえ。」
心外だといわんばかりの不機嫌な顔で、御柳がたたずんでいた。
どうやら財布の端で由太郎の頭を小突いたらしい。
「何するんだよみやなぎ〜〜!」
「てめえが失礼なこと言うからだろーが。」
「何だよ〜ホントのことじゃん!!」
「どこがだよ!」
御柳は由太郎とも気安く話す様になっていた。
その姿に、クワットロはいつの間にか他人の輪にとけこんでいた自分の姿を重ねる。
やはりあいつの影響なのか。
こんなに誰もかれもがアイツのペースに巻き込まれてる。
本気でぶつかってきて、いつの間にか頑なになった気持ちを解きほぐす。
御柳も…自分も。
アイツに惹かれていく…。
(…何を考えとるんじゃ、ワシは。)
「あ!さるの〜こっちこっち!」
「遅ぇぞ。何してやがった。」
どきり。
「わりーわりー。うちのガッコの子津の奴からメールがあってよ〜。
返してたら遅くなっちまった。」
ずきり。
「子津って、うちとやった時の最後のピッチャーだよな?
あのすわろーっての?」
「あぁ?あの地味じみくんか?
んなのにかまって俺たちをわすれるたあいい度胸だな?」
「てめ御柳、子津をバカにすんじゃねえよ!」
ずきり。
「子津はすげえ努力家だぞ?
努力できる奴は才能がある奴と同じくらいすげえんだよ。」
「…えらく贔屓すんな。その子津って奴。」
「そりゃな。」
当然というふうに、天国は笑った。
ずきり。
(…なんじゃこの痛みは…。)
「まあいいや、とりあえずさっさと行くぞ。」
「だな、いこいこ!」
「おう。おっ、クワちゃんいたのか。んじゃな〜〜。」
「…?!」
一瞬、天国が言った名前をクワットロは聞き逃しそうになった。
(クワちゃんてワシのことかい…;)
参る。
どうしてあいつはこうも見逃さずにいてくれるのか。
もしあいつが前にいた学校にいれば…。
自分は、今の学園にはいなかっただろう。
(詮無い事を…。)
分かっていても、思わずにいられなかった。
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「おっクワちゃん」
「…猿野?!」
その日遅くの自販機で、クワットロは天国に出会った。
なんの運命の悪戯かと自分らしからぬことを、クワットロは思う。
「…というかなんだその名前は…。」
「あれ、クワちゃんじゃ気にいらねえ?
んじゃトロちゃん。」
付け直してくれたあだ名に、クワットロは再度脱力する。
「どこぞの育成ゲームのネコみたいな呼び方はやめい。」
「え〜だって本名しらねえし。」
「…本名か。」
当然自分にもある。
凶賊星学園に入った時に学生として本名は出さないようになったが…。
「知りたいか?」
ぼそり、と自分の言った言葉に、自分で驚いた。
そんなつもりは本当はないのに。
「何?教えてくれるんか?!」
すると、予想以上に天国は食いついてくる。
瞳を輝かせて。
自分の名を、自分を知りたいと。
自分に興味を持っていると、表情全てで教えてくれる。
こんな顔を見せられては、自分を見せたくなっても無理はない。
こいつは、こうやって輪を作っているのだな、と。
クワットロは理解し。同時に。
目の前の存在がいとおしく思えた。
君の輪はとても心地がいい。
だから…少しでも輪の中心に行こうとするのも、悪くない。
「じゃあ、特別に教えてやろう。」
礼はいただくからな、とクワットロは口の端をあげた。
「礼って…そうだな、じゃあ明美のカラダでどぉ?!」
天国はクワットロの言葉に便乗して、いつものように冗談を言った。
だが、クワットロはそれに便乗させてもらった。
「よし、乗った。」
「へ?!」
「礼はぬしのカラダじゃ。さあ、言うぞ。
ワシの名は…。」
「え?!ちょ、待て待て!!」
「待ったなしじゃ。礼はしっかりもらうぞ?
ワシの名は…。」
「ぎゃ〜〜〜!!」
君が知りたがってくれるから君を知りたくなった。
君がいるから輪の中は暖かかった。
君は欲してくれるから与えたくなる。
君は優しいから輪の中では優しくなれる。
そんな君が、誰よりも愛しい。
end
2号様、大変お待たせいたしまして申し訳ありません!
約束どおり14日に仕上げられてほっとしてます…(T▽T;)
思った以上にほのぼのしたものになったのですが、こんなのでよろしかったでしょうか?
クワットロ視点の天国観察、みたいな感じで。
…ぬるいお話ですみません。
2号様改めまして素敵リクエスト、ありがとうございました!!
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